王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです

プラチナブロンドの髪はふわりと背中に落とし、その美しさがよく堪能できるようにしてある。

ラナの黄金の髪はバルバーニ帝国でも目に珍しいものだった。

両手には手袋をはめられ、豪奢な飾りのついた深紅の扇を持たされる。

身なりを整えた彼女は、それから皇帝の待つ謁見の間に通された。

バルバーニ帝国の皇帝アルベルト・ファルケンベルグは、待ち望んだ王女を手に入れたという報告を受けてから非常に上機嫌であったので、女のために時間を無駄にすることにも文句は言わない。

さらに薄暗い部屋のドアの奥から姿を現したのが大陸では滅多にお目にかかれない金髪の美姫だったために、彼は勝ち誇った気分で口の端を歪めた。

ラナは日の光が届かない縦長の部屋をゆっくりと進み、オオカミと十字の赤い軍旗を背にして奥の座椅子に深々と腰掛ける男を見据える。

アルベルトは今年で60歳にもなろうという男だ。

この国の男性に多い赤い髪をしていて、虹彩の色は濃い褐色だった。

35年前、その剣の腕一本で皇帝の座にのし上がって以来安定して権威を保っており、今でも屈強な身体と精悍な顔つきに衰えは見えない。

この男の後ろには、第二皇子のヴィルマーという青年が影のようにひっそりと立っていた。

彼は赤みが混じったブラウンの髪をしていて、父親に比べても細身で頼りなさそうではあったが、皇帝の従順な駒として帝国陸軍の軍務長官を務めている。

アルベルトは少し離れたところで立ち止まって目を伏せる王女に声をかけた。


「遠いところをよく来たな、スタニスラバ国王の末娘よ。名を申せ」

「ラナ・カリムルーと申します。お目にかかれて光栄にございます、皇帝陛下」


ラナは丁寧すぎるほどに礼儀正しく膝を折ったが、威厳に溢れるその挨拶の作法はナバ式である。
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