王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです

「おい、こちらにはいなかったぞ」

「西だ! もっと西を探せ!」

「王女をナバへ帰らせてはならない!」


ラナを追うバルバーニ兵の声が耳に届くようになり、彼女はいよいよ慌てて走り出す。

右に左にと折れながらなるべく狭い隙間を抜け、どんどん峡谷の奥へと足を進めた。

ラナがいるのはガフ・キャニオンの中でもキャンベル側から入ると一番険しい道のりを辿るルートで、きちんと備えをした者でさえ、苦労をしながら丸2日かけて越えることができるかどうかというところだ。

もしもここを水や食料もなしに1日程度で渡る方法を知っている者がいるとすれば、それはハサン・カサレス・キャンベルくらいのものだった。

やみくもに道を進んでいたラナは、ふと赤土の壁の足元に40センチほどの小さな隙間を見つけたので、迷わずそこへ身体を滑り込ませた。

それをくぐった先になにがあるかはわからないが、とりあえず馬に乗っている兵士たちに見つかることなく身を隠すことができるだろう。

短いトンネルを這ってくぐり終えたラナは、膝をついて立ち上がる。

そこは四方を高い土壁に囲まれた狭い部屋のような空間になっていて、周囲の喧騒も厚い壁に遮られるほど、シンと静まり返った場所だった。

ラナがくぐってきた隙間の向かい側には、彼女の背丈でようやく頭がつくかつかないかというくらいの高さの洞窟があったので、彼女はしばらくそこでバルバーニの兵士たちが過ぎるのを待つことにする。

(休める場所があってよかった。日が暮れるまで体力を温存して、暗闇に紛れてナバを目指したほうがいいかしら)
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