王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
「え……エドワード、さま……」
ラナの身体からは急に力が抜けていき、彼女はふらふらとエドワードの胸の中に倒れ込んだ。
エドワードはラナをひしと抱き留め、背に羽織っていた黒いマントの中に彼女をすっぽりと収めてしまう。
彼はマントの下に普通の貴族男性のような装いをしていて、頭には社交界で流行りのカツラを被っていた。
一応の変装である。
王子はラナを腕でぎゅっと自分の身体に縛りつけ、眉間に深い皺を寄せた。
「いいか、今回ばかりは本当に怒っているからな。なんなんだ、あの手紙は。ラナを死んだものと思えなどと、お前は俺を殺したいのか。俺がどれだけお前に惚れているか、教育が足りなかったと反省したよ。俺をこんなに骨抜きにしておいて、今更逃げようなんざいい度胸だ」
ラナは彼のあたたかい胸に頬をつけ、説教だろうが文句だろうが、死ぬほど恋しく思ったエドワードの声を聞いているうちに、これまでのすべての緊張が解けて子どものように声を上げて泣き出した。
「ふぇ……ごめ、ごめんなさい、エドワード様」
好きになった女の子の涙に弱いこの王子は、ギョッとして目を丸める。
腹の辺りに必死にしがみついてくる小さな身体を強く抱きしめ返し、どうしたものかと慌てふためいた。
「なっ、泣くな!」
なんとか絞り出したひと言がそれなので、相変わらず女の子を慰めるのは苦手なエドワードである。
「お会いしたかったのです。もう一度、エドワード様に。殿下に迷惑をかけてしまって、その上あなたの元へ逃げ帰ってはいけないとわかっていたけれど、でも、どうしても会いたくて……」
「みくびるな。俺がお前をそう易々と手放すはずがないだろう。だいたいお前は、俺のことが好きではないのか。なぜもっと俺を頼らないんだ」
まさかラナは本当にエドワードが彼女のことを見捨てるなどと思っていたのだろうかと、彼は少しばかりふてくされた。