王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
(それならこのロロも、エドワード様のご友人なのね。だから私を助けてくれたのだわ)
ラナは元来の人懐こさを発揮してホッと胸を撫で下ろし、すぐにエドワードのマントから出た。
それからライアンとロロが王太子夫妻の前に腰を下ろすと、ナバの間諜は厳しい顔つきで話し始める。
「バルバーニの皇帝と皇子は、王女殿下をみすみす逃がすつもりはありません。峡谷の隅々まで捜索し尽くしても見つからなければ、そのままキャンベルへも攻め込みそうな勢いです」
エドワードは眉間に皺を寄せて頷いた。
「やはり、このままラナを連れて帰れるほどうまくはいかぬか」
彼らと対面できたことで完全に気を抜いていたラナは、事態がまだ解決には至っていないことを思い出した。
大勢の兵士たちが逃げ出した王女を血眼で探している今、たったの4人で峡谷を抜け、ナバへ帰ることは不可能だ。
ラナが見つからなければ戦争が始まるだろう。
彼女の表情が強張ったのを目ざとく捉え、エドワードがラナの肩を強く引き寄せる。
ライアンがエドワードと同じ黒いマントの下から布袋を取り出し、中身を4人の真ん中に広げた。
「こちらのほうは首尾よく進んでおります。王女殿下には再三恐ろしい思いをさせてしまうやもしれませぬが、予定通りに実行したほうがよろしいかと」
彼が袋の中から取り出したのは、バルバーニの陸軍兵士の制服だった。
ライアンとエドワードのふたりぶんが用意されている。
彼らはきっとこの峡谷からひっそりと隣国へ潜入し、軍服を着て兵士に紛れ込むつもりだったのだ。
今度こそバルバーニとの因縁に決着をつけるために。
敏いラナは、それだけでライアンの頭の中にあるこの先の予定を悟った。
「私は、もう一度バルバーニへ戻ったほうがいいのね」
彼女がぽつりと言うと、これを聞いたエドワードはすぐにラナを腕の中に抱き寄せた。