王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
どれほど銃を突きつけようとも、彼女の高潔な魂はなにか別のものに守られているかのように、弾丸では撃ち抜けない気さえする。
ラナは前回とは違って、疲弊しきった悲しみに沈む青い目ではなく、何者にも侵せない底のない海に似たそれでフベルトスを見返した。
皇子は不覚にも、一瞬怯んで息を飲む。
王女は黙って地面に跪くと、フベルトスの赤いジュストコールの裾に唇を寄せてキスをした。
しかしそれは彼の望んだものとはどこかズレていて、汚され痛めつけられて従うものの姿ではない。
そうしていてさえ、ラナの所作には品位と威厳しか感じられないのだ。
「ふん。興が削がれた。今夜は塔の上でせいぜい震えて眠るがいい。明日の夜になれば、きみはもうどうしたって俺から逃げられないんだよ」
皇子がそう言い残して城の中へと消えたので、ラナは彼の言う通りにもう一度あの南の塔のてっぺんに閉じ込められることとなった。
小窓に見える東の空が明るみ始め、新しい日が訪れようかという時分だった。
エドワードの言いつけに従って寝台の上でしっかりと休息をとっていたラナは、鉄のドアが小さくノックされる音に目を覚ました。
左足に繋がれた鎖を引きずりながら近寄ってみると、床との隙間から白い紙が差し込まれ、微かな囁きが聞こえる。
「殿下からのお手紙です」
ドアの向こうにいるのはこの時間で見張りを交代になったロロだろう。
ラナは屈んでそれを拾い上げた。