王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
その日の夕刻になると、ラナは真っ赤なバラ色のドレスを着せられた。
目に眩しいほどのドレスはかなり大胆なオフショルダーで、さらにラナの金色の髪はゴテゴテした重たい宝石と共に結い上げられている。
なんでも今夜はこの皇帝の城に各国から貴族たちが集まり、帝国で流行りの仮面舞踏会が催されるそうだ。
皆が様々に趣向を凝らした仮面で目元を覆い、妖しげな雰囲気の夜会で、普段は顔を合わさぬ別の小国の貴族たちと出会う。
これが彼らの年に二度しかない楽しみらしく、同時に帝国の頂点に立つ皇帝の権威を示す場でもあった。
ラナには黒い羽のついた仮面が渡されたが、彼女の髪は北の大陸にはほとんどいないプラチナブロンドだったので、このようなものはラナの身元を隠すには無意味である。
仮面舞踏会は城の裏手にある海に丸い日が沈むときを合図として始まった。
舞踏の間は素顔を隠して自分を飾り立てた者たちで溢れ返り、流麗なワルツや軽快な民族音楽などが次々に演奏される。
広いホールに灯された蝋燭は極端に少なく、仮面のせいもあって、暗がりに浮かぶ相手が誰なのかを特定するのはとても難しかった。
とはいっても舞踏会に参加しているのは大抵がラナにとっては初対面の者たちで、僅かな明かりにも反射して輝く黄金の髪を持つスタニスラバの王女は、誰にとっても注目せざるをえない人物だった。
この夜会でフベルトスは、ラナをエスコートすると決めていたようだ。
彼は黒を基調とした衣装を身に纏っており、差し色にバラの赤を使い、仮面はラナと同じデザインの少し大きめのものだった。