王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
(なんだか目が回りそうだわ)
ラナは胸の奥の焦燥も手伝って、気分が悪くなってしまいそうだ。
それだからただ慣れない音楽と踊りに置いていかれぬよう集中するのが精いっぱいで、彼女の周りの様子が少しおかしくなっていることに気がつかなかった。
ラナがふと顔を上げてみると、彼女の周囲だけ異常に隊列が乱れている。
(え、私?)
ラナは自分がその原因なのかと思って一瞬慌てたが、そうではないことがすぐにわかった。
ラナのダンスの相手をしている男だけが、ルールを破ってずっと彼女の手を握っているのだ。
ペアを交代するところになっても、無理やり割って入ってラナを別の男に譲ろうとしない。
ラナは少ない蝋燭に照らされた舞踏の間でくるくると目の回りそうなダンスを踊りながら、ふと身体の近づいたときにその男の顔を見上げた。
男は黒に近い紺色のマントを被っていて、その下にチラチラと覗く衣装も同じような色使いだったが、暗いところに暗色なのでよく見えない。
顔を覆う仮面はとても大きくて、彼の口元までもがその下に隠れていた。
ただこの蝋燭の薄明かりの下でわかるのは、彼の髪の色はどちらかといえば暗めの系統だということだろうか。
「あの、あなたは……?」
ラナは周りからの非難の視線に耐えかねて、彼女のパートナー役を独占する男に囁きかける。
男は大きな仮面の下からほんの僅かに覗いた形のいい唇をイジワルそうに歪ませた。