王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
「ようやくお気づきかな? 姫君。私はあなたを拐かしに参ったものです。何度でも言わせていただくが、あなたは私のものだ」
彼はそう言ってマントを翻し、掲げられた剣に反射して蝋燭の光が閃くほどの間に、ラナを腕の中に攫ってしまった。
「怪しい男よ。何者だ?」
フベルトスがラナを抱く謎の男に剣を突きつける。
ホールの中には隅々にまで光が行き届くほどの明かりが急いで灯された。
光の下に晒されてみると、その男の髪はブルネットで、大仰な仮面の下から覗くのは翡翠色の双眸だということがわかった。
彼が羽織っているのは、隣国の王族を示すインディゴブルーのマント。
その下に着ている衣装は、王立騎士団の一等騎士のみが纏うことを許された礼服だ。
嗚咽を堪えて震えながら彼にしがみつくプラチナブロンドの少女を、男がマントの下にすっぽりと覆い隠してしまう。
自国の皇太子の妃となるべく娘を得体の知れぬ男に奪われ、夜会に参加していた貴族たちは突如として混乱に陥った。
黒い羽の仮面を外し、フベルトスが片方の目を細めて言う。
「その娘は第一皇子である私の姫君だ。さあ、貴様も仮面を外し、妻から手を離したまえ」
「お前の姫だと? おめでたい方だ。なにか勘違いしているらしい」
ラナを左腕に抱いた男は、フベルトスの言い分を鼻で笑い飛ばしながら大きな仮面に手をかける。
「本当にいいのか? 俺が仮面をとるときは、貴様らが化けの皮を剥がされるときだ」
フベルトスが手に持った剣を振りかぶる。
男はラナをしっかりとマントの中に守り、右手で仮面を勢い良く取り捨てた。