王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです




■3■


時刻は仮面舞踏会の日の朝方まで遡る。

早朝の海上の空気は肺腑に痛いほど澄んでおり、肌を刺す冷気は独特の鋭さを持っている。

エドワードはバルバーニの皇都からは少し離れた海岸で小舟に乗って生まれて初めて海へ漕ぎ出し、彼がその権限で呼び寄せた世界最強の軍艦へ招かれた。

それは王女をギルモア公国の港へ護送してきた船よりもずっと最新鋭の技術で造られたものらしいのだが、そもそもこんなに大きな船に乗ったのが初めてだったので、その凄さは今のエドワードにはまだわからない。

けれどこれは彼の婚約者がエドワードを信頼して託してくれた権利であり、義務でもあったので、ナバの王太子はこの先スタニスラバという強国の王立海軍に対して、その軍事力に見合った責任を持つことになる。

とにかくラナに統帥権を譲ってもらってからほんの少しの間も置かずにそれを行使して呼び寄せた船の者たちに礼を言い、船室で待っていた王子と参謀総長に対面した。

窓を背にしたソファに深々と腰をかけているのはバズ・カリムルーという男で、スタニスラバ王国の第二王子であり、王立海軍の将校でもある。

妹と同じブロンドの髪に、涼しげな青い目を持っていた。

その横に控えて立つのは、浅黒い肌をした壮年の男だ。

エドワードは彼になら以前も会ったことがある。

王立海軍参謀総長のヴィートという男で、王女の目付役を兼任させられていたらしく、ラナの思い出話にもよく登場した。
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