王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
「これはまた、珍しい客人ではないか。我が帝国へご旅行の予定がおありなら、声をかけてくだされば迎えをやりましたものを」
仮面を外したラナが、エドワードのマントの間から顔を出して皇帝を見る。
深紅のコートを羽織った彼は座していたときより上背と威厳があり、衰えはあるものの、やはり迫力を感じさせる体躯の戦士なのだ。
右手にはラナに向けたあのマスケット銃を持っていた。
エドワードがラナを抱き直し、彼女の頭をマントの中に引っ込める。
「お久しぶりです、アルベルト皇帝陛下。前回あなたにお会いしたとき、私はまだほんの少年でした。剣の達人と聞いておりましたのに、今はそちらに持ち替えられたのですか?」
ナバの王太子と距離をとって息子と並んだアルベルトは、愛用の銃を掲げてみせる。
「ええ。これはいい物ですよ。私と貴殿との距離でも、引き金を引けば一瞬で心臓を撃ち抜くことができる」
ラナがマントの中でぶるりと震え、エドワードの心臓を守ろうとするかのようにぎゅっとしがみついた。
アルベルトがふと口元を歪めた。
「その腕の中の小生意気な王女と共にしばらくゆっくりと我が帝国に滞在されてはいかがかな。銃のことも、もっとよく教えて差し上げよう」
皇帝が腕を上げると、エドワードたちを取り囲んだ兵士の円陣がひと回り縮まる。
「いえ、結構ですよ。この度の小旅行は、あなたたちへの土産をお届けするためのものですから」
エドワードがそう言ったとき、兵士の円陣の一部が外から崩された。
貴族の格好をしていた男たちが突然背後から襲いかかり、一気に中心へ攻め入ったのだ。
エドワードの後ろへついた彼らは、そこで仮面を取り払う。
それは彼の側近であるライアン・ルセロと、皇帝と取引をしているはずの海賊の幹部たちだった。