王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
「王女殿下は本当に勉強熱心なのですね。感心いたします。バルバーニ帝国では女性が学ぶことも働くことも許されないのだと聞いたことがございますが、ナバの女は聡明であることが美徳ですから」
ラナは眉間に皺を寄せたまま、険しい顔で唸った。
今日の授業は東にあるバルバーニ帝国の歴史とナバとの関わりについてが主であったのだが、学ぶことが好きなラナでも、あまり明るい気持ちになれる話題ではなかった。
海国スタニスラバで育ったラナには、侵略も戦争も、遠いどこかのおとぎ話と同じくらい実感を伴わない恐怖だ。
特に10年前にギルモアとバルバーニとの国境で起こったというカルダ山の戦いは壮絶で、両軍共に多くの死者を出したのだという。
それ以来両国には書簡ひとつのやり取りもない。
窓辺に飾られたラベンダーの花を見て、ラナは授業中ずっと気になっていたことを口にした。
「その、カルダ山の戦いには、殿下もご出陣なさったのかしら」
10年前といえば、エドワードはまだ王立騎士団にいたはずだ。
それも前線で活躍している頃なのではないだろうか。
ラナのひとり言のような問いかけにも、家庭教師は律儀に答えてくれる。
「もちろんでございます。殿下とライアン様が一等騎士を叙勲される前のことでしたが、おふたりはすでに名高い騎士であらせられましたから。もうひとり、一等騎士候補との呼び声高きご友人がいらっしゃいましたが、かの戦で亡くなられてしまったのでしたね」
家庭教師は過ぎし日を思い起こし、沈痛な面持ちで言った。
「殿下のご友人が?」
ラナは急に、ひんやりとした手に心臓を掴まれたような感覚になる。