王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
「キャンベルへ?」
「ああ。もちろん結婚式までには城に戻る。ほんの短い視察さ」
ドナト・カサレスの治めるキャンベル地方には、ラナが行きたいと思っていた巨大な峡谷がある。
加えて、北の大陸に来たら見てみたいと思っていた光の帯も、あちらの地方に行けば見られるはずだ。
「素敵。きっと楽しい旅になるでしょうね」
目を輝かせるラナに、エドワードは苦笑して言った。
「どうかな。とにかく、城には俺の近衛兵を何人か残していくし、きみはしっかりルザとマノンの言いつけに従うんだ。俺と一緒でなくては内城壁を出てはいけないと言ったのを、ちゃんと覚えているだろう」
彼はお気に入りの婚約者の小さな鼻をツンとつつき、留守の間おとなしくしているようにと言い聞かせる。
大きな瞳を見開いて固まったラナは、呆然として呟いた。
「私は、王都に残るのですか?」
エドワードはショックを受けたようなラナに気がつき、普段の調子で口元にイジワルな笑みを浮かべる。
「なんだ、ついて来るつもりだったのか? きみは王女だろう。公務に女性は連れて行かないさ」
そんなふうに言いつつ、ラナが当たり前のように自分と共に行くことを望むのを、かわいらしいことだと感じてしまう。
これだからエドワードは彼女を気に入っているのだ。
ところがラナは、急に突き放されたような気分になっていた。
(デイジー様は、一緒にキャンベルへ行くのでしょうに)