王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
そこが彼女の故郷なのだから、当然だと頭では理解している。
けれどキャンベルは、ラナがエドワードに連れて行ってほしかった場所だった。
馬鹿げた考えだとわかってはいても、やっぱり彼が自ら選ぶのはラナではなくデイジーなのだと、そう思い知らされているような気がした。
「私もご一緒したいのです」
「きみが俺に意見する権利はないぞ、姫君」
「でも、殿下は、峡谷へ連れて行ってくれると約束してくださいました」
ラナの声が微かに震えていると知り、エドワードはやっと常とは違う彼女の様子に気がついた。
膝の上で白い手をぎゅっと握りしめて俯く彼女は、かわいらしい牙を持って彼に歯向かってくるラナではない。
モヤモヤとした黒い感情が頭をもたげ、彼女の澄んだ青い目を曇らせてしまう。
エドワードはラナの顔を覗き込み、幼子に言い聞かせるように話し始めた。
「キャンベルには今、凶暴な赤いオオカミが出没している。そいつらを捕えてくるだけだ。なにも俺だけ楽しんでくるわけじゃない」
それになにより、ラナを危険な目に遭わせるわけにはいかないのだ。
なにが起こるかわからない国境付近の辺境地へ行くのだというのに、エドワードには仕事があるから、彼女を片時も離さず腕の届く範囲に置いてやることはできない。
それならば強固な城の壁の中に閉じ込めておいたほうが、随分と安心できるというもの。
彼は苦手なりになんとか目の前の女の子を宥めようとしたが、ラナは俯いて目を合わせようとしない。