王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
第三章 蜜月と離別
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ハサン・カサレスは、同期の中でも一番陽気な男だ。
国境付近のキャンベル辺境伯の嫡子で、父も二等騎士を叙勲した剣士である。
幼い頃から北の山脈や東の峡谷を駆け回り、父から剣の手ほどきを受け、ときに凶暴な獣と対峙して成長した彼は、17歳の頃には立派な体躯の騎士になっていた。
プリエト伯爵家の三男であるライアン・ルセロは彼と同い年で、また腕の立つ騎士であったが、王都に近い都会のプリエトで育ったライアンは、田舎を駆けずり回って育ったハサンに比べると随分細身に見えた。
彼らはその性格も対照的で、底抜けに明るいハサンと腹の黒いのライアンは、王立騎士団に入団した当初は犬猿の仲だった。
筋肉質で屈強なハサンは男に好かれ、琥珀色の瞳を持ち貴公子然としたライアンは女に好かれた。
幾度とないギルモア遠征や山賊の討伐で競って功績を立てたふたりは、近いうちに一等騎士を叙勲するだろうといわれていたが、その彼らよりも一段と腕の立つ者がいた。
それが王太子アルレアラ大公のエドワード・バロンである。
彼は乙女心だけは解さない朴念仁であったが、ハサンと気の合う無鉄砲さも、ライアンと気の合う気品も持ち合わせた男だったので、どちらとも馬が合ったのだ。
ある時村へ下りてきてしまった峡谷の黒いオオカミを捕獲するためにキャンベル地方へやって来たとき、ガフ・キャニオンを庭とするハサンを追って峡谷に入ったエドワードとライアンが、ハサンを見失って迷ってしまったことがあった。
結局これを探して見つけてやったのもハサンである。