王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです

『俺は峡谷でなら、エディとの決闘にも勝てるだろうな』

『はは、お前がいて助かったな。ライアンとふたりで野垂れ死ぬかと思った』


エドワードは素直に礼を言ったが、ライアンは大仰な仕草で天を仰いで祈りを捧げる真似をした。


『ああ、なぜ私の同期はこんな無骨な野生児と世話のかかる王子なのですか。どうかもっとまともな人間を遣わしやがれ』

『てめえ、それが助けてもらった奴の態度か! これだから腹の黒い性悪坊ちゃんは嫌いなんだ』


水と油のハサンとライアンにとって、エドワードは互いの妥協点のようなもので、誰も彼らのことを仲がいいとは言わなかったが、良き友人に恵まれた者たちだと思っていた。

そんなハサンが命を落としたのは、ギルモアとバルバーニの国境で起こったカルダ山の戦いでのことだ。

これまでナバとギルモアの連合軍はほとんどの小競り合いで優勢を保っており、この戦でもそうだった。

そのときすでに地面に伏していたのは多くがバルバーニ帝国の戦士たちで、ナバの王立騎士団はいつも通り、負傷した者たちを敵味方関係なく天幕の中に運び入れ、手当てを始めていた。

その男はすでに瀕死の重傷で、常識ならば動けるはずもない状態だった。

しかし常軌を逸した様子で突如立ち上がったバルバーニの戦士が、足を負傷した兵士に肩を貸していたエドワードに向かって剣を振るったのが始まりだった。


『エディ!』


王太子を庇ったハサンは背中に大きな傷を受け、そのままエドワードの腕の中で亡くなった。

ライアンが左目の下に傷を負ったのもこのときだ。

気の狂った者たちは敵や味方の区別なく、ただその命が尽きるまで暴れ続ける。

戦場で息をしている者がいるのなら、それが誰であろうと止まることなく襲いかかった。

この地獄の日から、ナバ王国とバルバーニ帝国の国交はその一切が断絶された。
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