王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
豊かな睫毛が小鳥のように震え、瞼の奥から翡翠色の瞳が現れた。
「ん、目が覚めたのか」
ゆったりとあくびをして軽く身体を伸ばす仕草をする彼は、ちっとも慌てたりしない。
「肩の傷は痛むか? もう熱は冷めたはずだけど、気分は悪くないか」
エドワードにそう訊かれて、ラナはようやく自分が右肩に傷を負ったことを思い出した。
そんなに深い傷ではなかったのか、処置が良かったのか、とにかく寝転がっている分にはあまり痛みはない。
ラナがふるふると首を振ると、エドワードは安心したような顔を見せ、彼女の麦色の髪をそっと撫でた。
そしてラナの額に羽根で触れるようなキスを落とし、それはこめかみや首筋を伝って、彼のために傷ついた肩も慰めた。
(で、殿下はいったい、どうしてしまったの……?)
ラナはなんだか砂糖漬けにされているような気分で、されるがままになっている。
エドワードはラナの傷に気をつけながら、彼女の肩に顔を埋めた。
「すまなかった。俺が王子なんかをやっているせいで、友人と……お前まで失うのかと思ったら、初めて恐怖で身体が震えた」
彼の声は頼りなく掠れ、本当に震えている。
傷を負ったのはラナだったけれど、その傷を一番痛いと感じているのはエドワードのような気がして、ラナはそっと手を伸ばした。
ラナが優しく彼の腕に触れると、エドワードは顔を上げ、今にも泣き出しそうな笑みを見せる。
「ハサンの話をまだしていなかったな。奴はとんでもない野生児のような男で、お前が行ってみたいという峡谷も、自分の庭のように知り尽くしていた」
エドワードは仰向けになってラナと肩を並べると、旧い友人のことを出会ったときのことから、思い出を辿るように話し始めた。