理由は聞かない
久保さんは真意を語らず、当たり障りのない会話を続けていた。意外と多い往来の中で、ぼんやり相づちを打ちながら、言葉を交わしながら歩いた。

そんなぼんやりした中で、視界にすーっと、光の筋が通りすぎた。

気がつけば、あたりは真っ暗で、なぜか急に怖くなり、一人で立ち止まってしまった。

「井田さん?」

久保さんが自分の名前を呼ぶ声で、はっと我にかえった。

「あ…すみません。」

すると、久保さんがすっと、私の右手首をつかんだ。そして、少し考えながら、ためらいながら、自分の左の小指に、私の手を握らせた。
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