理由は聞かない
陽太はイヤだと言っていたよな、暑くてイライラするって。小さな好みの違いだけど、それが積もって、気がつけば埋められない溝を作っていたのかもしれない。

赤信号で止まったついでに、ため息をついて伸びをした。

思考の彼方に行きつつある陽太は、今何を思っているのだろう。好きな人がいるというのは、なんだかんだでうらやましい。なんでだか、分からないけれど。

今の自分が不幸とは思わない。わずらわしさがなく、気楽な生活をしているとも思う。けれども失恋した現在の自分には、恋愛にまつわるわずらわしいあれこれに振り回されていても、それはそれで幸せそうに思えてしまう。

疲れているのだろうか。

青に変わった信号を見て、アクセルを踏み込んだ。今日は帰って、早めに寝よう。

帰宅後のLINEを見るまでは、そう思っていた。
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