理由は聞かない
「夏休み、旅行でも行くのか?」

不意に声をかけられて、少しパニックになった。ボスッと頭に手のひらが落ちてきて、髪の毛をグシャグシャっと乱された。

「何してるの、井田さん?」

手のひらの主を見上げると、そこには久保さんがニヤニヤと笑っていた。

「いや、ちが…うーん…違います。」
「じゃあ、どうするの?」

答えに詰まってしまう。

「休む、とか?」

コクンとうなずくしか出来ない自分が、なんだかとても情けなかった。まあ、事実だし、仕方ない。

「いいんじゃね、休む、でさ。」
「え?」
「夏休みなんだし。」
「そう…ですかね。」

ニヤニヤじゃなく、ふんわり笑って、久保さんが答えた。

「いい。俺が許可する。」
「なんですか、許可するって。」

いいか、休めば。たらればが、すっと消えて、なんだか笑えてきた。

「なに、おかしい?」

なんだか笑いがこみ上げて、止まらなくなって上手く答えられなくなってしまった。
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