理由は聞かない
結婚を初めて意識した相手で、それを伝えるより前に、彼女が妊娠していることが分かった、ということだった。
意外だった。私とするときは、必ずしていたことを、彼女にはしなかったということが、意外で仕方なかった。
「ねえ、七海。聞いてもいい?」
陽太の話をしていたのに、私の頭の中は違う人を思い出していた。
「異性を下の名前で呼ぶのって、どういう関係だと思う?」
「…はい?」
「いや、まあ、なんだかね。」
私は大事にされていたのか、面倒くさいことにならないように、ということだったのか。なんだろうな。
「兄弟とか、幼なじみじゃなければ、彼女とかかな。」
「そっか。」
「それと陽太の話は、なんの関係?」
「いや、まるで関係ない。」
「なんだそりゃ。」
大切にする相手と、そうではない相手。
きちんと避妊する仲と、妊娠しても結婚するつもりだからという相手。
名字で「さん」づけする相手と、下の名前だけで呼ぶ相手。
「…おーい、戻ってこーい。」
七海に言われるまで、私の思考はどこかに行っていたらしい。
「ごめん。」
「まあ、大丈夫。慣れてるから。」
この話は、ここで終わりとなった。
「そろそろ帰る?」
「そうするか。」
お会計を済ませて、またご飯行こうねと言い合って、七海と別れた。
変な話をしてしまっても、その理由を聞かないでいてくれた七海に、心の中で感謝した。