呆れるほど恋してる。
「今日は来てくれてありがとうねー」
テレビと同じでオネエキャラなのは変わらないらしい。
「お呼ばれしていただいてありがとうございましたー!友達も連れて来たんですよー」
友香はせりを前に押し出し、三山に紹介する。
三山はテレビと何ら変わりない表情で「あらー、モデル友達ー?」とクネクネしながら言った。
「彼女は川村せりさんって言って、セリーヌヴィーナスで店長やってるんです!」
「セリーヌヴィーナスって大手じゃないー?友香ちゃん人脈ひろーい!」
「大学の先輩だったんですぅー!」
そこまで会話して、三山がせりに向かって握手を差し出す。
「うちの女の子もセリーヌヴィーナス結構着てる子多いのよー」
「ありがとうございます。おかげさまで」
「一度うちの商品とコラボ出来たら楽しいわよね~」
ケラケラと笑う三山。こんなチャンスはそうそうないぞと思ったところで
「三山さーん!」と他の人が彼を連れて行ってしまった。
チャンスは前髪しかないというのは、まさにこのことだ。
私のバカ……。
頭の中で自嘲しつつ、友香を見ると、彼女も彼女でスーツを着た人から名刺をもらい何か話をしていた。
パーティーといえども、遊びではなくビジネスチャンスがたくさん転がっている。
名刺の一つでも持って来ればよかったのに。手ぶらでのんびり来てしまった自分を責めたあと、帰った方がいいのかななどネガティブな感情が芽生えてきた。
まだ来たばかりだというのに。
少しだけ後ずさりして入口の方に目をやっていると「あの、すいません」と背後から声がした。
振り返ると少しだけ困ったような表情を浮かべた男の人が立っている。
整った顔立ちに癖っ気のある少しだけ色素の薄い髪の毛。
身長はせりよりも頭一つ分大きい。
「えっと……」
何か粗相でもしてしまったのだろうか。
「申し訳ないけど、俺のスーツ」
困ったように笑って、その男性は床を指さす。
慌ててその指の方向を見ると、自分が履いてきたお気に入りのルブタンの8センチピンヒールでガッツリ彼のスーツを踏んづけていた。
「ああっ!す、すみません!」
慌てて足をどかそうとすると、ビリッと非常に聞きたくない嫌な音がする。
「……」
「……」
「……」
「弁償させてください!」
頭を下げて、本気で謝罪をする。
何という日なんだろうか。
自分のバカさ加減に本当に辟易する。
流石に、これは家に帰ってワインでも飲んで忘れようというレベルではなさそうな気がする。
人様の洋服をしかも洋服を商売としている人間が、踏んづけて破るなんて。
「大丈夫ですよ、弁償は」
ニッコリと笑って優しく言う男の人にせりの気持ちは少しだけ救われたが、次の言葉でさらに打ちのめされた。
「イニシャル入りの特注なので、売っていないんです」