呆れるほど恋してる。


「でも、好きなんです。自分でも呆れてしまうほど、彼に恋してます」


だから、健の気持ちはうれしいけど……そう続けようとした時「つけ入る順番間違えたな、俺」と頬を指でかきながら健は言った。


「すみません……」


「いや、脈がないの分かってたし。今日はねらい目かなと下心があったので、謝られると俺が痛い」


「……」


「そんなに好きなら、なんでフランス行かないの?」


「自分で決めたから」


「自分で決めた……ね」


健に繰り返されてせりはあふれだしそうな涙を必死にこらえていた。


「……」


「泣かせそうついでに言っておく。泣きたきゃ泣いた方が、次進めるんだぞ」


「でも……」


「あなたはもう少し男に甘えるということを知っておいた方が良さそうだよな」


再び健は店を検索し始めた。


どうやら飲みに行くことは決定事項らしい。


「泣きません」


「はいはい」


「絶対に泣きません」


「分かってるって」


無視しながら彼は検索を続けている。


強がるせりの涙が見えないように背を向けてくれていた。



「……一緒に行きたかったけど……チャンスを……」


「うん」


「チャンスを手放せなかったんです……」


「そりゃそうだよ。俺だって川村さんの立場なら日本に残る」


「でも……すごく後悔ばっかりしてるんです……」


「……」


「私、さっきも言ったけど……自信がなくて……きっと向こうに一緒に行っても絶対上手くいかなくなる……」


あまりに静かに健が受け止めてくれるので、せりはあふれる気持ちを吐き出すように言葉を外に押し出した。


健の優しさにつけ入るようで、嫌だったが一度吐き出してしまったものは止まらない。


まるで子供のように声をあげて、せりは泣いた。





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