呆れるほど恋してる。



彼女が来たのは、初日の閉店間際だった。


「どうも……」


むすっとしたような表情で、彼女はせりに名指しで「あんたに言いたいことがあるの」と言った。


「何かございましたでしょうか?」


接客モードのせりは柔らかく対応する。


はじめはクレームかと思ったが、今日彼女のような華やかな客が来たらせりは覚えていると思った。


「……ねえ」


「……?」


「なんで、フランスに一緒に行かなかったの?」


フランスという言葉を聞いて、ピンとくる。


この子は順の知り合いだ。


「……」


せりは静かに彼女を見た。


モデルのように細く、スタイルがいい。


きっと有名人なのだろう。


「順さんのこと好きなんでしょ?」


真っすぐな視線で射抜かれる。


自分にはないひたむきさ。


夢を追いかけるからと意固地になって、日本に残った自分にはないものだ。


「……」


「なんで、黙ってるのよ……!」


店のスタッフが困ったようにせりを見る。


まだ客は残っているのだ。


「お客様、お話しは外で……」


「私は客じゃないわ!一言、言いに来たのよ!あなたのせいで、順さんは変わってしまった!」


「……」


「好きなら、支えるのが彼女でしょ……!」


泣き始める彼女に、せりは優しく肩を抱く。


「さわらないで!」


この子も順のことが好きなのだ。と思った。


好きで好きで仕方がないのだと。


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