呆れるほど恋してる。



悪目立ちするので、スタッフの控室まで連れて行く。


彼女はずっと泣いていた。


「あなたに出会ってから、順さん変わった。前はもっと……」


泣きじゃくりながら順が変わったことを語る彼女に、せりは何も言えなかった。


前の順をせりは知らない。


知っている彼女が羨ましかった。


「芽生はずっと順さんだけを見て来たのに……」


そこで初めて彼女の名前が分かった。


ティッシュを差し出すと、芽生は盛大に鼻をかんだ。



「……」


「なんで、何も言わないの?」


睨み付けるように芽生は言った。


「……」


「……」


沈黙が続く。


何を言ったらいいのか、せりも分からなかった。


綺麗な若い涙を見て、静かに「ごはんにでも行きましょうか」と呟くように言った。


「は?」


「昨日私も泣いてたんですけど、泣きわめいて美味しいご飯行ったらスッキリしました」


ニッコリと微笑む。


「……バカにしてんの?」


「バカにしてないですよ」


「……」


「ただ、不安なのは私だけじゃなかったんだなって」


「……」


「……」


「あんた、バカなんじゃないの?」


「バカなんだと思います。一緒にフランスに行けなかったのも、私が意固地になっただけですし」


静かに微笑むせりを見て、芽生は口を噤む。


本当は誰よりも一緒に行きたかったのは、せりだということが分かったのだろう。


「何が食べたいですか?」


尋ねるせりに芽生は「焼肉」と答えた。


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