呆れるほど恋してる。



アパレル店の店長はとにかく雑用が多い。


洋服の売れるデータを参考にしながら、発注をかける。


トレンドをチェックして、顧客が選びそうな洋服をピックアップしながらマネキンにコーディネートを着せる。


新人の女の子の動きを確認して。


売上のデータ、顧客の来客人数、年齢層、リピート率を社内メールで送信。


顧客の相手をして。


気が付いたらお昼。


化粧が崩れていたらトイレで直し、お昼もそこそこでまた動き始める。


働き方は何も変わらない。


唯一変わったのは、自分の置かれている環境だ。


「川村マネージャー。お電話です」


社内携帯を手渡されて、電話に出る。


数字の確認。


担当している店舗の先日の売上額がいくらだったか、情報回収の電話だった。


パソコンに目をやりながら、報告をする。


「今日は必ず挽回させます」


宣言をして電話を切る。


「マネージャー。大丈夫ですか?」


心配そうな表情を浮かべるスタッフに「大丈夫!大丈夫!はたらこ」と笑う。


「絶対真似できません。憧れですよ」


力なく笑うスタッフに「なんか悩んでるの?」と尋ねる。


「プライベートなので、あんまり言っちゃいけないんでしょうけど、彼氏から連絡が来ないだけで落ち込んじゃうんですよね……」


そんな彼女の背中をせりは優しく叩いた。


「大丈夫だよ。絶対来るってこっちが信じなくてどうするの!」


「マネージャー……」


「美沙ちゃんのいいところは前向きに仕事するところだと思うよ」


白い歯を見せて笑いかけると彼女は力なく笑って「そうですよね」と背筋を伸ばした。


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