呆れるほど恋してる。
「なのでお気になさらず」
「本当にすみません……ああ、本当にごめんなさい」
服に関わる仕事をしているからこそ、その人にとって愛着のある洋服を破って(しかも靴で)しまったことが申し訳なかった。
せりが本当に申し訳ないと思っているのが分かったのか「じゃあ、俺とこのパーティー一緒に楽しんでくれませんか?」と言われた。
「え?」
言っている意味が分からず、思わず変な声が出てしまう。
「嫌なら大丈夫ですよ」
ニッコリと笑って言う男性にせりは口ごもったままだ。
帰ろうとしていたとは今更言えない。
「嫌ではなければ、一緒にまわりましょう」
有無を言わせない押しの強さに負けたのは、スーツの破れた箇所がせりの目に入ったからだ。
「はい……」
とだけ答えて、その男性と共に歩き始めた。
「名前はなんて言うんですか?」
ビュッフェ形式の豪華な食事を皿に盛りながら、中田順(なかた じゅん)と名乗ったその男はせりに尋ねた。
「川村せりって言います」
「せりさんっていうんだ。漢字は?」
「いえ、平仮名です」
接客業を何年もやっていたので、初対面の人間と全く話せないという訳ではない。
それにしても、破れたスーツの箇所が非常に気になる。
あんなに短時間でよくもこんなにビリビリに出来たものだ。
沈黙がしばらく続き、微妙にいたたまれなくなってせりは会話を続けた。
「順さんはお仕事何をされているんですか?」
こんなパーティーに参加しているくらいだ。
きっと立派な職業についているのだろう。
「俺?フリーランスで仕事してます。せりさんは?」
「私は、友達の紹介でお邪魔させてもらってて」
「そうなんだ。お仕事は何をやってるの?」
「アパレルの店長です」
「すごいね。若そうなのに」
順が柔らかい笑みで微笑む。
少しだけ緊張が溶けてきたので、せりも笑う。
「たいしたことないですよ」
「いやいや、すごいよ。俺はフリーでやってるから、しっかりと組織の中で役割をこなしてる人ってすごいって思う」
うんうんと頷きながら、それに俺はピーマン嫌いだし。
と皿の中にあるパプリカを避けたのを見て、せりは噴き出した。