呆れるほど恋してる。
彼の方に足を進めると、三山に肩を叩かれて彼は顔を上げた。
そしてせりを見つけると柔らかく微笑み「ただいま」とだけ言う。
「おかえりなさい」
「うん……」
「……」
「……」
沈黙が続く。
久々に会って、何を話せばいいのかわからなかった。
三山が気を利かして席を外す。
「帰って来たよ。せりさん」
柔らかい声で彼は言った。
この声を何度聞きたいと思ったことか。
何度もそんな感情を押し殺してきた。
「うん……おかえりなさい。順さん」
頷きながら、せりは言った。
泣かないと決めていたはずなのに、視界が歪む。
「せりさんってさ。泣き虫だよね」
「うるさいですよ……」
涙をぬぐうと、彼が手を引き寄せた。
「ごめんね。三山さんに怒られたよ」
「……」
「でも、せりさんに連絡すると心が折れそうで……」
「……」
「成功するまであなたに連絡しないって決めたんだけど、苦しめてたんだね。ごめん」
素直に謝罪の言葉を言われ、首を横にふる。
どうやら殴るなんてことは出来そうもなかった。
抱きしめられると優しい彼の香りがせりを包んだ。
懐かしい。
そして愛おしい。
「……」
「都合がいいかもしれないけど、一年前の約束。まだ有効かな」
尋ねられてせりは「ちゃんと……ちゃんと言葉にして言ってください」と呟いた。
もう不安になりたくない。
彼を信じて一緒にいたい。
「川村せりさん」
「……」
「僕と結婚してください」
彼の言葉に、せりはやはり涙を浮かべて頷くのだった。