呆れるほど恋してる。
ある程度パーティーが進んだところで、その日のパーティーの主催者が挨拶を始める。
「みなさん、本日は三山幸平のためにお集まりいただきましてありがとうございました」
海津 隆也(かいづ たかや)と名乗った男が、ステージの上に立ってスピーチをしていた。
続いて三山が挨拶を始める。
「本当にここまで来れましたのは、皆様のご協力とファンの皆様のおかげでして……。19歳で上京して来た時には、右も左もわからず……」
「三山幸平ってさ、20代の頃、四畳半の部屋で暮らしてたらしいよ。苦労人だよね」
順がせりに耳打ちした。
初めて聞く情報に驚く。
確かに、ここまで上り詰めるのに、どのくらいの努力と苦労があったのだろう。
「すごいですね」
感嘆のため息とともに言葉がこぼれ落ちた。
パーティーが終了したと同時に、順は柔らかい表情で「今日はありがとう」と言って去って行った。
出会いを期待していたわけではないが、なんとなく寂しい気持ちになった。
「せり先輩。今日は来てくださってありがとうございます」
ようやく解放されたらしい友香が、せりに駆け寄ってくる。
「いえいえ、こちらこそお招きいただきまして」
「ところで二次会があるんですけど、せり先輩参加します?」
「うーん。今日はやめておこうかな。明日も早いし」
明日は早番だったのをさっき思い出した。
発注をかけて、データを送信して。
あとは次月のシフトも送信しなくてはならない。
早く寝ないと、明日起きれなくなりそうだ。
「残念です……」
本当に残念そうな表情で友香は言った。
こういう時に、裏表がないところが彼女の好きなところでもある。
「ごめんね」
「いえいえ!また一緒に飲みに行きましょう」
別れの挨拶をして、パーティー会場を後にした。
そして、マンションのエレベーターを降りたところで、見覚えのある顔がせりを待っていた。
「……あ」
順の姿を見つけて、頭をさげる。
「今日はありがとう」
笑顔で言う順。
誰かと待ち合わせなのだろうか。
「せりさん」
「はい?」
「このあと、少しお時間あります?」
「えっと……」
「1時間でいいです。あなたの時間を俺にください」
夜はまだ終わらない。