呆れるほど恋してる。

シャワーを浴びた後、濡れた髪の毛を乾かしながらネットで予約をする。

実際に三山幸平にメイクをしてもらえるといったイベントらしい。

満員かと思いきや、キャンセルが出たようで二席だけ空きが出た。

最近、三山に縁があるようだ。

「すごいね!」

菜子は興奮している。

滅多にないチャンスに、喜んでいる。

「私が1時でせりが3時かー。私が先でいいの?」

はしゃぐ菜子にせりは笑う。

「全然。お先にどーぞ」

「何か余裕あるなぁ」

「だって、菜子が最初に見つけてくれたイベントじゃん」

「まあ、そうだけどさ。今日のせり大人しくて張り合いないよ」

ケラケラ笑いながらメイクを直す。

三山にメイクをしてもらえるといえども、すっぴんで街を歩く勇気はない。

準備が整った時には、既に時計の針は十二時半を回っていた。


「菜子急がないと!」

「おう!」

息を合わせて、フィットネスクラブを後にする。

大通りに出て、ヒールで走る。

「ちょっと、せり。早い!」

八センチヒールで走り抜けるせりに、菜子が笑いながら追いかける。


「だって、急がないと」


「あんた、そんなヒールでよくそのスピードで走れるね」

「遅刻したらメイクしてもらえないかもよ」

「待ってくれるでしょ。天下の三山幸平だって」

そんな風にふざけながら到着した時には、一時五分前だった。

店の周りにはたくさんのギャラリーがいて、賑わっている。

スマートフォンの予約画面を見せて、菜子が中に入っていく。

周囲からは「いいなぁ」と羨望の声が聞こえてきた。

そうだよね。

してもらいたいよね。


綺麗になりたいよね。


そんな風に頭の中で頷きながら、緊張する面持ちの菜子を見ていると肩を叩かれる。


「せりさん」

振り返ると彼がいた。

頭の中で何度も思い出した男。

なんで。


なんでこんなところにいるの。

予感ってやつは当たる。


会いたかったくせに。

連絡先を交換しなかったことを後悔したくせに。

せりはその場から逃げ出していた。
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