呆れるほど恋してる。
「待って!せりさん!」
いくらヒールで足が速いと言っても、男の人が本気で走って来られればあっという間に追いつかれてしまう。
キャットストリートと呼ばれる路地裏で、腕を掴まれ、抱きしめられるような形になる。
「……!」
「ねえ、なんでこの間は勝手に帰ったの?」
耳元で囁かれて、思い出す。
あの日の夜を。
身体の奥から、欲しいと。
彼を求めてしまう。
こんな感覚知らない。
怖い。
「ご、ごめんなさい」
振り絞ったような声が出た。
こんな声、自分の声じゃない。
知らない。
そこには順の顔がすぐ近くにあった。
瞳の中がキラキラと輝いている。
どうして迷いがなく私のところへ来れるの。
私は怖いのに。
何に?
何が怖いのだろう。
この瞳が。
いや、違う。
もっと違うところで私は恐れている。
頭の中でごちゃごちゃ考えていると、順がか細い声で「会いたかった」と呟いた。
気がついたら、唇を重ねていた。
路地裏と言っても人目がないわけじゃない。
もうすぐ27歳の誕生日を迎える。
なんて浅はかな。
そんな風に思いながら、せりは順に身を委ねていた。