呆れるほど恋してる。
唇が重なった。
激しく啄ばまれ、頭を押さえつけられると捕食されている気分になる。
何度も何度もキスの合間に名前を呼ばれ、どうしていいか分からなくなった頃、ようやく解放された。
道端で。
こんなことしたことがなかった。
恥ずかしくて顔が真っ赤になっているのが分かる。
「ごめん。そんなつもりじゃなかった」
突然、順が言い訳するように言う。
何がそんなつもりじゃなかったの。
どうして?
じゃあ、このキスもこの間の事も「そんなつもり」じゃなかったから、どうしてしたの。
「……」
「せりさん」
「馬鹿にしないでっ……!」
つい数分前に身を委ねた相手に、今度は怒りを感じている。
自分だって連絡先も渡さずに帰ったくせに。
「違うんだ」
「何が違うの。人で遊ばないで」
「遊んでなんか……」
順が言い訳を続けたところで、順の携帯が鳴る。
「……」
「……」
気まずい空気が流れる。
順の意識は完全に着信を告げているスマートフォンに向けられていた。
仕事の電話なのだろうか。
彼にとって非常に大事な電話だってことは、伝わってくる。
「……出ればいいんじゃない」
そう捨台詞を吐いて、せりはその場を後にした。
三山のメイクイベントはキャンセルしたい。
当日にキャンセルなんてすることもできない。
情けない気持ちでいっぱいだ。
やっぱりあの日、順に連絡先なんか伝えなくてよかった。
こんな気持ちになるのなら、最初からついていかなきゃよかった。
スマートフォンの時刻を見ると、十四時を指していた。
あと一時間。
菜子はもうメイクが完成しているはずだ。
迎えに行かないとと思ったところで
今どこ〜?
と菜子からLINEが入っていた。
今行く!
と返事をして、キャットストリートをかけていく。
今度は順は追っては来なかった。
それが「本気にするなよ」と言われているようで、あまりにも切ない。
本気にしなくてよかった。
まだ大丈夫。
最初に身体の関係になった男なんて上手くいくはずもない。
そう自分に言い聞かせて、せりは菜子のいる三山の店に走って行った。