呆れるほど恋してる。

「もう!どこ行ってたの?」

三山の店に到着すると、菜子が不機嫌そうに、だが三山の手によって美しく変身していた。

さすがは全国的にトップを張っているメイクアップアーティスト。


菜子の良さをしっかりと活かしたメイクだ。


これが彼女が一番綺麗に見えるといったポイントをしっかりと抑えている。


「わあ、菜子!綺麗!」


正直な感想を述べた。

素直に綺麗だと思ったのだ。


「褒めたって、後でクレープおごってあげないからね」


感嘆の声にまんざらでもないのか、菜子の不機嫌は一気に吹き飛ぶ。


こういう意外に単純なところが、嫌いじゃない。


「ごめんごめん。ちょっと電話がかかってきて」


「お店?」


「う、うん」


上手く嘘をつけたかどうか分からないが、菜子はそれ以上せりには何も聞かなかった。


「まあ、あんまり根詰めるなよ。せりは考えすぎるところあるからさ」


「菜子。ありがとう」


「いいえ。ところで、凄かったよ!せりも次の順番まで今やってもらってる人のメイク見ていこうよ!」


「うん」


「やっぱ。元気ない。大丈夫?」


「大丈夫。大丈夫!」


元気なふりをする。


あまりにも情けない。


順のことは、なかったことにすればいいのだ。


傷ついてなんかいない。


自分だって連絡先を教えていない。


大人同士の少しの過ち。


全く、何も問題なんかない。


じゃあ、何で順は自分を追いかけて来たのだろう。


それなのに、そんなつもりじゃないと言った。


分からない。

考えたって無駄だ。


もう二度と会うことなんかないのだから。


身体に残った感触も、数週間経てばすぐに消える。


三山にメイクをしてもらって気分を変えよう。

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