呆れるほど恋してる。
「こっちにハイライト入れると良いわよ〜」
雑誌で何度も特集されている三山のブランドコスメを贅沢に使いながら、彼は机の上に何個もオススメ商品を置いて行く。
順のことで落ち込んでいなければ、こんなにワクワクする時間はなかっただろう。
すごいな。と感嘆のため息を吐きながら、三山の手さばきを眺めていると「感動しすぎ」と菜子に笑われた。
「だって、やっぱりすごいんだもん」
笑いながら、せりは言う。
「そりゃ、私プロだもの」
大きなアイシャドウパレットを取り出して、三山は言った。
「うわっ。すご!」
「これお気に入りなの〜。ブラウン系って言ってもたくさんあるでしょ〜」
うふふと楽しそうに笑いながら、彼は少しだけラメの入った焦茶色のアイシャドウを指につけてせりのまぶたに塗る。
「いい?あなたの場合、全部に塗ると瞼が重くなるから、こういうダーク系のものは目尻からグラデーションっぽくね」
「は、はい」
「せっかくの休日だし、アイライナーは大胆に入れてみようかしらね」
うんうん、と頷きながら、やはりブラウン系のアイライナーを取り出す。
顔がどんどん変化していく。
まるで自分の顔ではないみたいだ。
先ほどまで順のことで落ち込んでいたのに、三山の手によってどんどん気持ちも明るく変化していく。
「メイクって元気になれるわよね」
せりの変化に気がついたのか、三山が優しく仕上げのマスカラを彼女の睫毛に施しながら言う。
「はい、だから好きなんです。メイク」
「せり、かわいい!」
興奮気味に菜子がスマートフォンで写真を撮りながら、前のめりになってせりを見ている。
「違う人みたい……」
感動のため息をついていると、三山がポケットから名刺を取り出し「アフターフォローと共にせっかくお知り合いになれたんだもの。連絡ちょうだいね」とせりに手渡した。
「こ、これ」
「そう、プライベートよ。菜子ちゃんも」
と一緒に名刺を渡され、共に驚く。
今度、飲みに行きましょう、って天下の三山幸平と?
目まぐるしい毎日に、翻弄されてばかりだ。
「友香ちゃんにもよろしく伝えて」
笑って手を振る三山の側には、次の順番の女の子がいた為二人はその場を後にした。