呆れるほど恋してる。
「にしても、三山幸平とせりが知り合いだったのは本当に本当にびっくりしたわ」
ビールを片手に菜子が本日何度目かの同じセリフをしみじみと言った。
あの後、居酒屋に二人で来た。
本当はせっかくお洒落なメイクにしてもらったからこそ、少しだけ敷居の高い店で食事でもするという話も出たのだが、何だかビール片手に安いおつまみ食べたくない?という話題で盛り上がり、チェーン店の居酒屋で夕飯を済ましている次第だ。
「だから、大学の後輩に誘われて行ったパーティーで一言二言話しただけだって。なんで向こうが覚えていたのか本当に不思議なくらいなんだから」
「でも、覚えてたってことは、興味持たれてるんじゃないの?」
ニヤリと笑いながら言う菜子にせりは首を横に大きく振る。
「ないでしょ。それはない!」
「言い切れないかもよ。あれ?せりって彼氏いたっけ?」
彼氏という言葉に一瞬だけ順の顔が浮かんだが、付き合っていないし、連絡先も知らない。
「いないよ」
「意外とせりって長続きしないよね、恋愛。なんで?」
「六年付き合ってるカップルと一緒にしないでください」
唐揚げを頬張りながらせりは菜子を軽く睨む。
菜子の基準で物事を考えると世の中のカップル全てが長続きしないカップルになってしまう。
「六年ねえ……。刺激はないよね」
退屈そうに菜子はため息をつく。
もう夫婦みたいなもんだし、結局トキメキはないんだよね。なんて言葉が唇から零れてくる。
「安定が一番です」
頷きながら言うせりに「でも、なんで前の彼氏と続かなかったの?」と興味本意で尋ねられ「向こうの浮気」と一言だけ言う。
「うわあ。そうだっけ?」
最低、と言いながら、菜子はお店の店員に新しいビールを頼む。
ついでにせりもビールをお願いした。
「一年も前の話だもん。もう過去よ、過去。顔も忘れた」
付き合ってた期間もそいつは短かったしね。
と言うせりに「やっぱり三山幸平じゃない?」とニヤリと笑う菜子。
「もう!」
と頬を膨らます彼女を見て、菜子は大爆笑している。
どうやらからかって遊んでいたらしい。
「でもよかった。さっきかなり暗い顔してたから、なんかあったんじゃないかってちょっと心配してた」
「……菜子」
「せりって自分の中に溜め込む癖があるから、ちゃんとその場その場で解決する習慣つけないと精神的にきちゃうからね」
まるで保護者みたいに口を尖らせる友人に、今日は会えてよかったなと改めて思うせりだった。