呆れるほど恋してる。


イベント終了後、三山の側には一人の男が立っていた。


「順ったら、どこにいたのよ〜」


「すいません。少し用事があったもので」


「そういえば、この間の川村せりちゃんに連絡先渡しておいたわよ」


「……」


順の動きが止まった。


「あんたも、まどろっこしいことしないで、ちゃんと本人に伝えてあげればいいのに。すごく落ち込んだ顔してたわよ〜」


メイク道具を片付けながら、三山は順に言う。


大事な商売道具は、絶対にスタッフの女の子達には触らせない。


立場がどれだけ偉くなろうと自分の道具は自分で準備も後片付けもする。


時間がなくともメンテナンスも自分でする。


それが三山のルールだ。


そんな三山の行動を目にしながら、順は「わかってますよ。ちょっと意地悪してみただけです」と静かに呟く。


「心配なのよね。あんたの場合」


眉をひそめながら言う三山。


「大丈夫ですよ。もう」


「大丈夫って言うヤツほど大丈夫じゃないのよ。一体何人の女の子泣かせてきたわけ?」


「今回のケースは僕が泣かされているパターンですよ」


「嘘おっしゃい」


「だって、連絡先も教えてもらえないくらいですからね」


「とにかく!女の子の心はデリケートなんだから、小まめにケアしてあげないとあっという間に手遅れになるのよ」


「……そんなもんですか」


「そんなもんですか。じゃないわよ!そ う な の よ!」


「いつもありがとうございます」


にっこりと笑顔で言う順に「その笑顔にはもう騙されないわよ」と三山は彼を睨みつけた。


「そろそろお時間ではないですか?」


「ああ、そうね。忙しい一日ねぇ。世間様は日曜日だっていうのに」


「こう言う業界ですからね。決まったようには動けないのは当然ですよ」


「わかってるわよ。本当に生意気になっちゃって」


昔はこんなんじゃなかったのに、とブツブツ言う三山を順はにっこりと微笑みながら眺めている。


「早く片付けないと置いていきますからね」


「……本当に生意気」


トランクケースにメイク道具を閉め終えた後、お店の女の子達に挨拶をして三山は順と共に店を後にした。

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