呆れるほど恋してる。
次の日から、せりは何かを忘れるかのように一生懸命働いた。
いや、何かを忘れるためというよりも順を忘れるために一心不乱に動いていただけなのだが。
これ以上振り回されてなるものか。
いちいち一喜一憂して馬鹿みたいだ。
結局昨日、菜子にそそのかされ三山に連絡を取ってみたのだが「本当に近いうちみんなで飲みましょ〜」と軽く帰ってきただけだったので彼女の予想は外れていたことになった。
でも、なぜあの場所に順はいたのだろうか。
というところまで考えて首を横に振る。
だから、考えたらダメなんだってば!
「店長」
スタッフの女の子に呼ばれ、せりは反応する。
「どうしたの?」
「あの、お電話です」
「……?」
会社の連絡携帯を渡され、電話を受け取る。
画面に表示されていたのは「本部 佐々木部長」という文字だ。
本部長様が直々に何の用だというのだ。
「お疲れ様です。川村です」
と電話に出ると「おお、川村くん。今時間は大丈夫かね?」と形ばかりの疑問を投げつけられた。
「大丈夫です」
形式的な模範解答を発して、せりは相手の言葉を待った。
「川村くんは、三山幸平って知っているね?」
「え、ええ。まあ」
「ここから先はまだ発表前なので極秘にしてもらいたいんだが、うちの会社と三山幸平がコラボすることになってね」
「……!?」
突然の言葉にせりは言葉を失った。
「原宿の小さな空きビルを一つ使って、何かやろうかという話になったんだよ」
「は、はい」
「何社か集って色々と案を練っていこうと思っているんだが、その際の店長を誰にするかで三山さんから君の名前が挙がってね。自分の商品もしっかりと理解してくれているとお墨付きももらったんだが、どうだい?川村くん。やってみないかい?」
まさかの大抜擢に言葉を失った。
近いうちに飲みに行きましょう〜と軽く返事が返ってきたと思ったら、確かに飲みに行くことにはなりそうだが。
いつから相手はこの戦略を練っていたのだろう。
昨日の今日ではないはずだ。
だとすると、昨日メイクしてもらった時にはもう既に動いていたというのか。
「聞いているかい?川村くん?」
「はい」
「まあ、決定事項なので本人の意思確認も形だけという風になりそうだが」
「あの」
「なんだね?」
「今の店舗の店長は誰がやるのでしょうか?」
新しいプロジェクトを抱えながら、今いる店舗の面倒を見るという器用なことができるのだろうか。
「ああ、そこは新しい店長を置くから心配しなくていいよ。引き継ぎ期間も合わせて一ヶ月の猶予は持たせるので安心してほしい。まあ、次の子も川村くんの後だとやりづらいかもしれないな」
我が社トップの業績を出している店長の後はね。
笑いながら言う部長にせりは「承知しました」とだけ答え、幾つか業務的な会話をした後電話を切った。
なんということだ。