呆れるほど恋してる。
「いえーい!遅い〜!」
電車で乗り継いで四十分。
三山に指定されたバーに到着すると、そこに完全に出来上がった三山と友香が座っていた。
物静かなバーでよくあんなうるさい電話が出来たなというほど、洗練された空間だ。
「お二人だったんですか?」
席に座って、三山に声をかけると「俺もいますよ」と声が聞こえる。
「……」
振り返るとそこには順が立っていた。
「最近、よく会いますね」
笑顔で言う順に三山が「あら、やーね。確信犯のくせに」と笑う。
「なんで?」
「たまたま、一緒になっただけですよ」
せりの隣に座って、順は笑った。
「な、なんでいるの?」
「ずいぶん嫌われましたね」
「……」
どうして、この男は気持ちをかき乱すのだろう。
どうして、そんな風に余裕でいられるの。
「先輩、何飲みますか?」
空気をあえて読まず、友香がメニューをせりに差し出した。
「せりちゃん、お酒強いの?」
三山も空気を読まず、質問を飛ばしてくる。
「えっと……」
「あまり強くない。アルコール度数低い方が良さそうだと思いますよ」
横から順が口を挟んだ。
なんで、私のことなのにあなたが口を挟むんですか。
文句を言おうとした瞬間「ああ、そうなの?じゃあ、こっちの方で選んだ方がいいわよ」とページをめくられ、アルコール度数の低いお酒が掲載されているページを指定された。
「じゃあ、季節のオススメフルーツのカクテルで」
マスターに頼み、メニューも返す。
マスターは柔らかい笑みで「承知しました」と言うと、フルーツを取り出してせりのためにカクテルを作り始めた。
「ビックリしたでしょ?」
三山がイタズラっぽい表情を浮かべてせりに言う。
「そりゃ、もうビックリしました」
聞いた時の話を言うと、三山はケラケラと笑った。
「いやあ、でも昨日もビックリしたわよ。セリーヌ・ヴィーナスの社長と会食に行こうとしたらせりちゃんお店に来るんだもの。お友達の何だっけ?」
「菜子です」
「ああ、菜子ちゃん!よろしく言っておいてね」
軽いノリで言われ、頷くせり。
「ところで、順さんとせり先輩って知り合いだったんですね」
驚いた表情で、友香が話に割り込んでくる。
「ああ、この間のパーティーでたまたま知り合ったんだ」
「せり先輩目立ちますからね、美人だし」
モデルを職業にしている友香が何を言っているんだと思いつつ、マスターから出されたお酒をせりは受け取った。