呆れるほど恋してる。
順の車の中は、甘いムンクの香りがする。


「ああ、これMy Burberryっていう名前なんだ」


お気に入りなんだと車のエンジンをかけながら、順はせりに笑った。


「……そうなんですね」


「そうだ。せりさん」


「はい」


思い出したように突然「連絡先、今のうちに教えて」とスマートフォンを取り出す。


「あ、はい」


つられて、せりもスマートフォンを取り出した。


IDを交換した後、順は嬉しそうに運転を再開する。


「せりさん、家ってどこらへん?」


カーナビでに住所を入力すると、画面が表示された。


甘い香りの中で、夜の街が静かに二人を包む。


たくさんの車が行き交う中で、誰も二人を見ていない。


付き合うとか、付き合わないとか、そんなことは全く関係なかった。

ただ、怖いという感情がせりを包む。


それがどういった種類の感情なのか皆目見当もつかない。


彼がどんな人で、どんな人生なのかわからない。


知らない。


それなのに、惹かれている。


連絡先も交換もしなかったのに、何度も出会った。


まるで、メロドラマだ。


仕組まれたかのように何度も出会っている。


静かに順を見つめていると「どうしたの?」と尋ねられた。


「い、いえ」


「そう」


「そういえば、三山さんとお知り合いだったんですね」


「え、ああ。まあ」


「あんなに仲が良いと思いませんでした」


あははと笑いながら話しをする。


「せりさんさ」


「はい?」


「なんで、そんな風に笑いながら話すの?」


< 36 / 117 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop