呆れるほど恋してる。
「え?」
キョトンとするせりに順は運転しながら彼女の顔を見る。
「今、楽しいって思ってないよね」
「……」
気まずい空気が車の中に流れた。
「せりさん。嘘はつかないで」
「……嘘なんかついてない」
嘘をついている訳ではない。
どうしたらいいのか分からないだけだ。
「俺のことが嫌なら、連絡も取らなくていいんだよ」
「……そんなことは」
「嫌いじゃない?」
赤信号になった。
車が静かに止まる。
横断歩道を数人が過ぎ去っていく。
「……」
「嫌いじゃないなら、キスするよ」
もう何度もしているくせに、順は柔らかい声色で言った。
「……」
狭い車体の中に、七色ネオンの光が差し込んだ。
「せりさん?」
順の手が、優しくせりの頬を包む。
「嫌いじゃない……けど」
「けど?」
先を促され、言葉を選ぶ。
適当に言うことは許されないような、そんな雰囲気だった。
順が真剣にせりのことを考えているのか、それも分からない。
信号が変わった。
後ろの車からクラクションを鳴らされ、順はアクセルを踏む。
「……」
「せりさん」
「……」
「明日、仕事?」
「い、いえ」
「じゃあさ。俺の家おいでよ」
にっこり笑って、ハンドルを切る。
ソチラハ モクテキチデハアリマセン。
カーナビが車内に告げる。
目的地の削除ボタンを押して、順は反対方向へと車を向かわせた。