呆れるほど恋してる。


目が覚めた時には、朝だった。


順の姿はない。


その代わりにキッチンからいい匂いが漂ってくる。


布団にくるまったまま、ボーッとしていると「起きた?」と順がせりに尋ねた。


「あ、はい」


一切身に纏っていなかったので、昨日脱ぎ捨てた(いや、正しくは脱がされた)ものをもう一度身に纏い、彼の姿を目で追った。



「コーヒー飲む?」


「はい」


他人の家で堂々とできるはずもなく、恐縮したままでいると何故か順は鼻歌を歌いながらせりにコーヒーをくれた。


おしゃれなマグカップに入っている。


角砂糖とミルクも一緒にくれたが、普段はブラックで飲んでいるため遠慮した。


「ちゃんと手で淹れたやつだから美味しいよ」


「ん。美味しい」


「よかった」


嬉しそうに笑って順もせりの隣に座って、コーヒーを飲み始めた。


昨夜はあんなに乱れたのに、朝になると非常に冷静な空気が二人を包む。


今日は、そろそろおいとまします。


とせりが言葉を紡ごうとした時「今日は一日時間ある?」と尋ねられた。


時間がない訳ではない。


ただ、これ以上一緒にいても順の迷惑になるのではないかと思った。


彼だって仕事はあるはずだ。


何をやっているのか知らないが。


フリーランスで化粧品関係の仕事をしてるんだっけ。


頭の中で彼との会話を思い出すが、ぼんやりとしか思い出せない。


「せりさん?」


顔を覗き込まれ「順さんは?」とおうむ返しのように尋ねてしまった。


「俺は、夕方から打ち合わせがあるだけだから、それまで一緒にいてくれると嬉しいな」


要は暇な時間を一緒に過ごす相手が欲しかっただけか。


「わかりました。一緒にいましょうか」


笑って言うせりに、順も嬉しそうに笑った。



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