呆れるほど恋してる。
「オープンは2月のバレンタインの時期と考えています。今から半年しかないですので、まずは店舗の内装のテーマから」
進行役の社員がホワイトボードに、青いマーカーで「店舗」と書き込んだ。
「2月ということは、春物を中心に扱っていくということですね。来春のセリーヌヴィーナスは、レースで行こうと思っているんです」
高田さんが息込んで自分の案を言った。
レースに合った世界観にしてしまうと、他のジャンルの服になった時に合わなくなってしまうのではないかとせりは思った。
三山のコスメはシンプルだ。
あまり店舗の中が、ガチャガチャしていては映えないのではないかと思う。
だが、商品がどんなものになるのか予想もつかない今、店長と言えどもデザインに関して素人である自分が発言していいものか悩みどころではあった。
「んー、レースなのねぇ」
三山が頷きながらメモを取る。
「春はガーリーなものが流行りやすいですもんね。レースの世界観はありなんじゃないですか?」
三山の横に座っている、秘書的な女性がメガネを押し上げながら言った。
さすが、三山のそばにいるだけあってメガネをかけていても綺麗に見えるメイクを施している。
進行役の社員が「レース」とホワイトボードに書き込んだ。
「他に意見はない?」
三山の言葉に次々と意見が飛び交う。
予想していた以上に意見が出て、せりは完全に怖気付いていた。
店長をしている時には、思いもよらなかった。
ここの会議室に入るのはせいぜい十五人程度だ。
それにも関わらず、何十という意見が出てくる。
先日、マーケティングの本を買って三山に「つまらない女」と言われたことを思い出した。
「川村さんは、何か意見はない?」
突然中島さんに意見を振られ、せりは慌てた。
「会議聞いてました?」
「え、あ、はい」
中途半端な言葉が口からこぼれ落ちる。
「余裕じゃん」
ボソリと高田さんの声が聞こえた。
嫌味だ。