呆れるほど恋してる。



アパレル店の店長はとにかく雑用が多い。


洋服の売れるデータを参考にしながら、発注をかける。


トレンドをチェックして、顧客が選びそうな洋服をピックアップしながらマネキンにコーディネートを着せる。


新人の女の子の動きを確認して。


売上のデータ、顧客の来客人数、年齢層、リピート率を社内メールで送信。


顧客の相手をして。


気が付いたらお昼。


化粧が崩れていたらトイレで直し、お昼もそこそこでまた動き始める。


「店長、また今月も1位になりましたね!」


お店の売れっ子店員、真紀ちゃんが嬉しそうに声を上げた。


「まきちゃんのおかげだよ!この調子で頑張ろう!」


笑って返す。


よかった。


次の店長会議でまた何も言われなくて済む。


残業代手当の上限はもうとっくに超えた。



川村 せり(かわむら せり)


26歳。

独身。


年収350万。


手取りは18万。


ボーナスが出るだけまだマシなこの世の中。


おそらく自分は恵まれている方だ。


大人女性人気アパレルブランド【セリーヌ ヴィーナス】の店長になってからもう3年の月日が経った。


店長と言っても、人手不足なので新入社員の頃からやっている。


最初になった時には、右も左も分からずあたふたした。


毎晩泣いていたが、最近はこなれたもので涙を流す日は滅多にない。



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