呆れるほど恋してる。
表示されたのは順の名前だった。
「……」
今かけておいて、出ないのもイタズラ電話になってしまう。
順の後ろには、三山がいる。
あまり失礼な態度を取り続けても、三山に変なことを言われても困ると自分に言い聞かせてせりは通話ボタンをタッチした。
「もしもし……」
「せりさん?」
「はい」
「電話くれたでしょ?」
少し嬉しそうな声色を含んで、順は言った。
どうして、こんなに嬉しそうな声を出せるのだろう。
順は演技がうまい。
だから、迷ってしまう。
声を聞くだけで、好意を持たれていると思ってしまう。
一人になったら、なんて浅はかだったんだろうと反省してしまうほど舞い上がってしまうのだ。
一体何人の女の子が彼に泣かされたのだろう。
間違えてボタンを押してしまったとは言い出せず、「あの……」と不器用な言葉しか出てこない。
「今日はどんな日だった?」
優しくハスキーな声色が耳に心地いい。
「今日は……」
たくさん迷った日だった。
楽しかったよー!とは言い難い。
普通の女の子だったら、ねえ、聞いてよー。と愚痴をこぼすのだろう。
「学んだ1日でした」
静かに言葉を出すと、順が吹き出した。
「なんで、笑うんですか?」
「いや、せりさん真面目だなって」
クスクスと電話の先で笑う順に、せりは口を尖がらせた。
「そういう順さんは、どうだったんですか?」
「んー?俺は、三山さんの暗躍をしてましたよ」
「暗躍?」
「これ以上は言えないけど」
「……気になります」
「今度ゆっくり教えてあげるよ」
「……」
「せりさん」
「はい」
「明日の日曜日の予定は?」
「明日は、原宿に視察に行こうかと思ってて」
「そうなんだ。仕事の?」
「はい」
「何時に終わる予定?」
「夕方には終わらせようと思ってて」
「じゃあ、そのあとご飯行こう」
「えっと……そのあとは」
一緒にいると流されてしまう。
先ほど決めたばかりだというのに、もう決心が揺らいでしまう。
無邪気にせりを誘う順。
一体彼は何を考えているのだろう。
「この間、会えなかったから会おう」
まるで恋人にでも話すかのように、優しく順は言葉を紡ぐ。
「……」
「明日は当日キャンセルは無しでね」
「……はい」
押しに弱い。
電話が終了したあと、自分自身のウィークポイントに深いため息をついた。