呆れるほど恋してる。
順に連れて行かれたのは、小さなセレクトショップだった。

看板も掲げていないその店舗は、入り口の装飾から少しだけイギリスを思わせるような不思議な作りになっていて、少しだけ重い扉を開けるとその中は日本であることを忘れるような空間になっていた。

装飾、服のレイアウト。

全てが独創的で、服が生き生きしている。

「すごい!なにここ!」

興奮気味に言うせりに順は「絶対に気に入ると思ったんだ」と笑う。

「オーナーには話しつけてるから、好きなだけ探索していいよ」

「……」

頭を撫でられた。

もしかしたら迷っていることを順は知っていたのだろうか。

「どうしたの?」

「い、いえ」

「見ておいでよ」

「……はい」

背中を押されて、せりは店舗の中を見始めた。

壁紙から、小物から全てこだわりがあるのだろう。

まるでロンドンの街角にあるようなアンティークで店内が揃っている。

世界観が統一されていると言った方がいいのだろうか。

三山達との会議で、一番欠けているものだ。

鞄の中から、スマートフォンを取り出して考えをメモしていく。

「テーマは、ロンドンガールなんだ」

背後から、声が聞こえてきて振り返ると一人の男性が立っていた。


「あの……」


「大沢 賢二と言います。順の友人です」


「あ、初めまして。川村せりと言います」


「今度、三山さんとコラボするんでしょ?」

「はい」

「オープンが今から楽しみにしてるよ」

「で、何に困ってるの?」

「……えっと、コンセプトがイマイチ固まらなくて。三山さんとコラボするにしても、どうしたらいいのか分からなくて」

「なるほどね。結局は自分の好きな物になると思うんだけど、価値観の違う誰かと作るとなると難しいよね」

「はい……」

そうなのだ。


セリーヌヴィーナスが打ち出したいコンセプトと、三山の持っている世界観を合わせると少しだけジャンルが異なってしまう。

なので、違和感が拭えない。

イマイチ案が出し切れないのもそれが迷っている原因の一つだ。

「俺の場合は、変に中間にはしないけどなぁ」

「このお店はどうやってセレクトしたんですか?」

「んー。服に合わせたら、こうなった」

「服?」

「そうそう。この服たちは、イギリスの展示会でイギリスのデザイナー達が作ってるんだよね。だから、服の雰囲気に合わせて毎回小物とか変えてるんだけど、大体こういうイメージになる。パリの展示会から仕入れてくる時には、もう少し変わるけどね」

賢二がニッコリと笑って言った。

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