呆れるほど恋してる。

外で久々にタバコを吸った。

会ったときのせりの表情を思い出す。

今日は自分と会いたくなかったのだろうなと、すぐにわかった。

何が理由で怒っているのか分からないが、自分が何かをしてしまったに違いない。

「おい、順」

店の中から賢二が顔を出す。

「ああ、今日はありがとう。助かったよ」

「彼女、真面目な子だな。堅い」

「そこが魅力だと思うけど。職人気質だなとは思うけど」

「彼女の才能に三山さんが惚れ込んだってのは彼の目を信じるけど、あの子と恋愛するのは大変そうだと思うぞ」

賢二の言葉に順は苦笑する。

「手を焼いてるよ」

「だろうな。お前が他のことデートしてると思ってるし」

「他の子?」

「言ってたぞ、彼女。ああいう子裏切ったら二度と戻って来ない、好きならしっかりと捕まえておけ」

「……」

身に覚えがない。

仕事でミーティングなら何度かあったが、個人的なデートはせり以外と約束はなかった。

何を勘違いしているのだろう。

不思議に思い、タバコをもみ消して順は店の中に賢二と足を運んだ。

店内では、藍色のワンピースに身を包んだせりが立っていた。

シフォンのスカートがふわりとなっており、彼女の華奢な体を包み込んでいる。

「……」

「あの、やっぱり今日はやめておきます」

ぼーっと見惚れていると、視線に困ったのかせりが順に言う。

「どうして?」

「…‥だって」

彼女の視線が値札に行った。

4万8000円。

と書かれた値段のワンピースに気後れしているらしい。

「ああ、別にいいよ」

カードを取り出して、順が言うと「そういうことじゃないんです……!」と慌ててせりが止めに入る。

「……?」

「悪すぎます」

「いやいや、賢二と洋服一枚買う約束で、今日は店の見学してたから。いいんだよ。その代わり、三山さんにいい案だしてあげてよ」

にしても、彼女は外国のデザイナーがデザインした大胆な洋服も似合う。

一瞬せりの表情が変わった気がしたが、順の言葉に説得されたのか「わかりました」と素直に頷いた。


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