呆れるほど恋してる。
せりが休暇を使って順とデートしていたその頃。
社内が賑わった。
サングラスをかけ、黒いシフォンのリボンで髪の毛をポニーテールにしている一人の女性ががコツコツとヒールの音を鳴らしながら、エントランスホールに響かせ歩いていた。
「あれ、原田芽生じゃない?」
彼女のの顔を見た一人の女性社員がそばにいたもう一人の女性社員に囁く。
「え、誰それ?」
「ほら、インスタの女王って呼ばれてる人だよ」
「なにそれ?」
「インスタで人気が出て、今雑誌とかめっちゃ出てるじゃん」
颯爽と歩く彼女はまるで自分がスターであったということを知っているといった風に歩いている。
今年のトレンドを取り入れながら、さり気なくセリーヌヴィーナスの小物もアクセントに使っていた。
「すいませーん。802会議室ってどこですかぁ?」
「あちらのエレベーターをご使用くださいませ」
「ありがとうございますー!」
インフォメーションセンターのお姉さんに場所を確認して、彼女は更に足を進める。
小さな鞄の中からスマートフォンを取り出した。
手首にはvery very mei 1867 0719と書かれたタトゥーが彫ってある。
「川村せり……」
エレベーターの前で、彼女は小さな声で呟いた。