呆れるほど恋してる。
順が嬉しそうな表情でせりの手を取る。
せりの着ていた洋服は順の車に積まれた。
「店に持っていく訳にはいかないでしょ」
ニッコリ笑って順は、彼女の手をしっかりと握りなおした。
「ありがとうございます。今度料金はお支払いします」
「いいよ。俺が好意でやってるんだから」
こんなことになるのであれば、最初からしっかりと準備をしてくるんだった。
好意を仇で返してしまったようで、罪悪感が拭えない。
「あの……」
「ん?」
賢二の言葉を思い出して、せりは順に伝えようと思った。
彼がどういうつもりなのか。
三山とコラボをするから大事にしてくれるのか、それとも自分に対して好意を持ってくれているからなのか。
他にも女性がいるのかどうか。
「順さんは……」
「うん」
途端、彼のスマートフォンから着信音が聞こえた。
「……」
「マナーモードが解除されてたのかな」
彼が着信画面を見ると、少しだけ困ったような表情を浮かべる。
「大丈夫ですよ。出てください」
「わかった」
そう言うと、順は彼女の手をしっかりと握った。
前回は、ここで逃げてしまった。
信用されていないんだと、苦笑する。
「はい」
順が電話に出ると『ねぇー!今セリーヌヴィーナスにいるけど、いないじゃない。どこにいるのー?』と甲高い女の声が聞こえてきた。
「芽生さん。今日は、彼女おやすみだよ」
『彼女に会って、納得しないと芽生ブログに書かないからね!』
「ちゃんと時期が来たら、紹介するよ」
『順くん、そう言ってこないだも会えなかったもん!』
「ちゃんと三山さんと相談して紹介するよ。今日は、これから用事があるからまた連絡するね」
『その用事ってデート?』
「……」
『へえー。デートなんだ』
「芽生さん、そろそろ怒るよ」
順が厳しい口調で言うと、電話先の芽生はごにょごにょと小さな声で何かを言って電話を切った。
「ごめんね、せりさん」
「今の子は……?」
ものすごく強烈な子だった。
電話の先からも勢いを感じるというか、押しが強いというか。
「今度の三山さんのプロジェクトを担う一人だよ。そのうち会うことになると思うけど……」
「順さんは、一体どんな仕事をしてるんですか?」
せりが疑問に思ったことを伝えると順は困ったように笑って「それもそのうちしっかりと機会を設けて伝えるよ」と呟くように言った。