呆れるほど恋してる。

「どうしてそうやっていつも誤魔化すんですか……」

せりが小さな声で呟く。

「……」

「……」

嫌な沈黙が二人を包んだ。

「せりさん」

先に口を開いたのは順だった。

優しく抱きしめられる。

「いやっ!離して!」

毎回ここで流されている。

こんな風に流され続けて、最後はどうなってしまうんだろう。

もうそろそろ抗わなければならない。

ずっとはこのままでいられない。

温かいぬくもりも、今は忌々しいと感じることしかできなかった。

「せりさん……本当に今は言えないんだ」

「言えないって何?」

「……頼むよ」

困ったような表情を浮かべる順。

まるで、せりが彼を追い詰めているようだ。

何も言わないのは、順の方なのに。

逃げるせりを捕まえるのは、順の方なのに。

どうしてせりが問い詰めるような形に見えてしまうのだろう。

どうして、責めるせりが悪いという風になってしまうのだろう。

「……順さん」

「せりさん。本当に言えない。ごめん。君のことを好きだけど、今は何も言えないんだ」

「遊びってことですか……」

「違う……」

「……私が悪いんですね」

「違う……」

優しく身体を彼から離す。

追いかけてはこなかった。

「わかりました。浮かれた私がバカだったんです」

心をくれない男に、心を求めているからおかしな話になるのだ。

洋服を1枚買ってくれたことで、全てをくれると思ってしまったのかいけないのだ。

彼は一言だって「好きだ。付き合いたい」なんて言わないじゃないか。

「せりさん……待って」

「いいんです。ごめんなさい」

「……」

「今日はありがとうございました。洋服の代金は三山さんを通じてお返しいたします」

背を向ける。

追いかけてこない。

追いかけてくれるなんて期待しているからバカを見るのだ。

だから最初の日、ホテルで連絡先を置いてこなかったんじゃないか。

こうなるのが怖かったから。

数十歩歩いたところで振り返る。

順の姿はなかった。
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