呆れるほど恋してる。

今日は久々の休みだった。

趣味のマラソンをして、皇居前を走り終えた後キンキンに冷えたポカリスエットを飲む。

それが三山の休みの日の習慣だった。

「あー、気持ちいわね。仕事から解放される瞬間って」

鼻歌交じりでこれから岩盤浴にでも行こうかと思ったところ、着信があったことに気が付いた。

順だった。

「……」

珍しい。

彼の方からアクションを起こすなんて。

慌てて、返事をす。

数コールで彼はでた。

「順ちゃんどうしたの?」

「……」

「ちょっと」

彼の様子が変だ。

「何があったのよ?」

今日はせりとデートだとLINEが来ていたから安心していたのに。

「振られた……」

「はあ?!なんで?」

思わず大きな声が出る。

周囲で同じように皇居の周辺を走っていた人たちが三山を振り返った。

いやいや、人の視線なんか気にしていられるか。

「言えなかった」

「何を?」

「付き合ってほしいって言葉が」

「……」

「……駄目だった」

小さい溜息を吐く音が機械越しに聞こえた。

「仕方ないわよ……」

そう言うしかなかった。

全てを知っているからこそ、出た言葉だった。

人には言えない順の秘密。

彼のことを知っているからこそ、「このヘタレ」とは言えなかった。

「無理してあの子にする必要はないわ。身体の関係を持ってしまったからって、彼女に責任を持つ必要もないもの」

「でも……俺は、彼女が……」

「だとしても、今は無理する必要はないわ」

「……」

「順ちゃん」

「三山さんごめん」

「今日はゆっくり寝なさいよ」

彼女いったい何を考えているのかしら。

人をそう簡単に傷つけていくような子には見えなかったけれど。

うーんと唸って三山は電話を切った後深く考える。

「そういえば、せりちゃんお友達いたわね……」

名前なんだったかしら。

ぶつぶつと呟きながら、三山は目的の名前を探す。

大人の情事に口をはさむのもどうかと思うが、あんなに憔悴した順の声を聞いて黙って行方を見守ることは出来ない気がした。

「ああ、あったわ。この子この子」

今度は三山が目的の彼女に向かって電話を発信した。

プロジェクトの成功のために、彼女のモチベーションを保たなくては。

そして、順のことも……。

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