呆れるほど恋してる。

待ち合わせをして、目的の部屋のインターホンを押す。

菜子は「はいよ」とだけ言ってロックを解除してくれた。

部屋の中に入ると手料理のいい匂いが、空腹のせりの腹を刺激した。


「今日は誘ってくれてありがとう」

「全然。問題なし。ごめん。今日そんなに酒のつまみないけど大丈夫?」

コンビニ食が嫌いだという菜子は必ず自分で料理を作っている。

トマトとモッツァレラチーズとくるみをあえてバルサミコ酢をかけたものと豆腐のキッシュがテーブルの上に並んでいた。

「もう少しでゴボウチップスも揚げ終わるから。そしたらビールで乾杯しよ」

「うん」

「まあ、座ってテレビでも見てて。先に食べててもいいよ」

「ううん。大丈夫。相変わらず料理うまいね」

「まあ、趣味も重ねればある程度にはなるよね。ほい、ラスト揚げ終わり」

皿の上に盛られたゴボウチップスをせりに見せる。

「おいしそう」

「おいしいよ」

目が合ってお互いに吹き出す。

気が緩んだのか、涙が出てきた。


「なこぉ〜」

「詳しくは知らないけど、三山さんから聞いた。大丈夫だよ」

よしよしと抱きしめられて、涙が止まらない。

順とのことを知っているんだ。

知っていて受け止めてくれていると分かって、安堵と共に今までせき止めていたものが一気に溢れ出す。


「好きなんだけど、好きなのにひどいことばかりしちゃうの」

「うんうん」

「反省するんだけど……大事にできなくて……自分の要求ばっかり」

「みんなそんなもんだよ。受け止められない相手の男も、少しは反省すべき」

「仕事も……プレッシャーばっかりで、ろくにできてないし……」

吐き出せ、吐き出せ。

と優しく言葉をかけてくれる菜子に「ありがとう」と言葉を返す。

泣き始めて十数分。

せりの腹の虫が鳴って、菜子は大爆笑して「そろそろ、食べようか」と彼女の肩をさすった。


「だいたい、せりは我慢しすぎ。頭の中で溜め込むからよくないんだよ」

少しだけ冷えたゴボウチップスを頬張って、菜子は頷く。


「我慢してる自覚はないんだけど」


「我慢してるよ。三山さんの話だと、デザイナーの子に色々やられてるらしいじゃん」

三山はどこまで話をしているのだろう。

にしても彼がそんな風に思っているなんて知らなかった。


「せりは大学の頃からあんまり文句とか言わなかったから、すごく心配だったんだよね。頑張り屋なのはいいけどさ」

「うん……」

「でさ、せりは今後どうしたい訳?」
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